脳梗塞

みんな霧の中

 脳梗塞を起こした直後に訪問して医療機関に託した方の二回目の訪問日。待っていてくれた。独り暮らしが気ままで好きだったのに、今は車椅子を押してもらわなければ外に出ることも出来ない。自分が何処にいるのかはぼんやりとわかっていても、そこから脱出して外の世界でどう生きてゆくのか手段が無い。何もかも失ってしまって自分の今後のことも他人にゆだねたまま。決められたことに従ってゆくしか方法が無い。悲しいなと思う。ベットの上に腰掛けてもはや自分ではどうすることも出来ない空を見上げている。こんな人生は予定に入ってなかった。二週間立ったらまた私は彼の病室を訪問する。そのとき何か心が晴れるようなことを言ってあげられるだろうか。
 職員に彼が願っていることをいくつか伝える。その内一つでも実現したら、彼は自分のことを気にかけてもらっていると実感してくれるだろうか。愛情は特定の人間関係の中でだけ育つものではない。見知らぬ人同志であっても、たとえその人がやってくれたとわからなくてもそっと手渡せるものなのだと思う。そんな気持ちを沢山受け取って生きてきたから、私は今ここにいるのだろう。ペイ・フォワード。受けたものを次に手渡せ。
 施設は高台の上にある。空に近い。車でゆっくり通りながら、彼の幸せを祈る。