抜けるような青い空

車の窓の汚れに光が乱反射して走りにくい。眩しいくらい明るい空。久し振りに空を見上げた。シミジミと空を見上げたのにはわけがあった。うんざりする事があったから。昨日なんて事のない夕食時に、前の差し歯を支えていた歯茎の根元がクキって割れて差し歯が取れてしまった。何が嫌いかってこの世に歯医者くらいいやなものはない。前の歯だから抜けたままにしても置けないし、試験が終わるまで、誰とも喋らず口をあけず暮らそう。何が困るって、食べ物の熱がそのまま唇に触れる事。今まで歯の役割は咀嚼だけと思っていたが、デリケートな口腔粘膜を保護する役目も果たしていたのだ。歯抜け体験はしたことがないだけにこれは衝撃だった。自分の間抜け顔も見たくない。マスクをしているとボーっとするからもうクチを真一文字に結んで暮らす。内緒にしていつ家族にばれるか楽しむ手も有ったが、カミングアウトでもしなければ歯医者に行く勇気が出ない。情けない。この年になってまだ我慢できないこわさがあるんだよなああ。子供に「歯医者に行ったら」と言われる前に「いくから。解っているから。お願い。何も言わないで」