花の種を買う

 花を育てる事は、自分の時間が過ぎてゆく感覚を植物が育つという姿で確認する作業である。何かを通して時間を確認する事は、立ち直ろうとする人にとってとても大切な事である。自分だけが世界から取り残されてしまったと感じている人に「大丈夫。貴方もまたこの時の流れの中にいるよ」と花が教えてくれる。言葉だけではないイロイロなものを通して自分と世界のつながりを発見してもらいたいと思っている。子供時代そうやって手を掛けられて育つ事ができなかった人は、例え大人になっていてもインナーチャイルドはまだ幼い子供のままである事が多い。自分が自分を育て折り合いをつけてゆくことで、きちんと大人になってゆくことが出来る。ほんの些細な後押しがあれば、自分で立ち直ってゆく事が出来る。人間はタフな生き物である。
 ヒントはかつてナチスの収容所にいた二人のユダヤ人女性が、もし自分達が生還したら生き残った仲間達のために花を育てながら回復してゆくセラピーをしたいと願って、とうとう実現したという話から。二人のうち一人は癌で亡くなってしまったが残された一人が二人の名前でこの夢を実現した。たくさんの心が痛み傷ついた人々が元気を取り戻していった。その記録を読んだとき、私の関わっているクライエントにもこの方法が有効な人がいるのではないかと思った。自分で実践してみて、回復の助けになると思った。人間は海を体内に持ち、やがて土に返ってゆく。私たちは姿を変えた大地の一部なのだ。ふっとそう思う。
 発芽率がよくてなかなか枯れにくい花を選ぶのも楽しい。4種類の種を買った。