今年

今年私たちは自分たちの一番大切なものを失った。そして彼を失ったことで自分たちがどれほど大きなさいわいの中に生きていたのかを知った。私たちは彼の命が大地に帰っていったのか、大空に風となって自由に吹き渡っているのか、宇宙の果てに飛行して行ったのか分からない。そのどれもが真実であり、そのどれもが真実ではないかもしれない。命は生きているものの想像の枠にはおさまらない。そして残されたものにとってはそのあり方が嬉しい。彼の死によって私たちにとって死は見知らぬものではなくなった。死は、命の一つの形でしかない。だから死ぬ事を急がないで。死はいつも隣にいる。その眠りを覚まさないで。いずれ目覚めの時が来るから。生きることの意味。生きることのありがたさを彼は私たちに教えてくれた。
 生きる。この一言の重さを考え続け、自分で答えを出し続けた一年だった。
二度と帰ってこないこの痛みに満ちた時間を、限りなく愛しいと思う。